結論:2025年は「直行便」を捨て、「経由地」と「発券地」をズラせる者が勝者となる
記事の結論:
2025年現在、日本発の欧米行き直行便(ANA/JAL)は、円安・原油高・ロシア空域回避の「三重苦」により、一般旅行者が手を出せない価格帯に突入しています。
しかし、視点を少しズラすだけで価格は劇的に下がります。具体的には、「中国経由(価格破壊)」「ソウル発券(海外発券ループ)」「マイルの裁定取引」の3つを駆使することで、正規運賃の半額以下での移動が可能です。
これらはSFC修行やマイル活動で培った「ハッカー思考」があれば、誰でも再現可能な戦略です。
本記事では、航空会社の予約システムと市場の歪み(マーケット・ディストーション)を利用し、高騰する航空券市場をハックするための実践的手法を、徹底的なデータ深掘りと共に解説します。
- Triple Whammy: 円安×燃油高×ロシア迂回によるコスト増の構造的要因
- China Hack: 東京-ロンドン間、ANA直行便の半額以下(約11万円〜)を叩き出す中国東方航空
- Origin Hack: 「東京発」ではなく「ソウル発」にすることで、同じANA便が30%安くなる怪現象
- Mileage Arbitrage: 1マイルの価値を最大化する「バイマイル」戦略

Part 1: なぜこれほど高いのか? 価格高騰の「構造的バグ」を理解する
敵を倒すには、まず敵の正体(仕組み)を知る必要があります。現在の航空運賃高騰は、一過性のものではなく、以下の3つの要素が複雑に絡み合った構造的な問題です。
1. ロシア空域の閉鎖(供給コストの増大)
ウクライナ情勢により、日系および欧州系航空会社はロシア上空を飛行できません。これにより、欧州線はアンカレッジ周りや南回りルートを余儀なくされ、フライト時間は2〜4時間増加。燃油消費量も比例して増大し、これが運賃に直接転嫁されています。

エンジニア的に言えば、ネットワークの最短経路(Best Path)が遮断され、レイテンシ(飛行時間)とパケットロス(燃油コスト)が増大している状態です。
一方、中国系や中東系キャリアはこの制約を受けない(あるいは影響が少ない)ため、圧倒的なコスト競争力を持っています。
2. 燃油サーチャージの高止まり(Historical Data)
2025年も燃油サーチャージは高止まりしています。ANAの欧州線サーチャージは片道約25,000円〜35,000円(往復で約5〜7万円)。
かつて2016年〜2017年頃には「サーチャージ0円」の時代もありましたが、現在は原油価格の高騰に加え、次に述べる「円安」が計算式に大きく影響しています。
これは航空運賃とは別枠の「税金」のようなもので、特典航空券で予約しても逃れられません(※一部の提携航空会社を除く)。この固定費(Fixed Cost)をいかに下げるかが、総額を圧縮する鍵となります。
3. 「弱い円」による購買力の低下
これが最も深刻です。航空券の原価(燃料、機体リース料、駐機料)はすべてドル建てで計算されます。
1ドル150円台の現在、日本円でチケットを買うこと自体が、為替市場という巨大なハンデを背負って戦っているのと同じです。「日本発券」のチケット価格が上がるのは、航空会社の利益追求というより、円の価値そのものが目減りしていることの反映に過ぎません。
Part 2: 戦略1「中華/香港ルート」の活用とサバイバル術

「直行便神話」を捨てましょう。2025年の最適解の一つは、間違いなく中国系エアラインの活用です。
価格差の現実(2025年 東京-ロンドン事例)
実際に検索してみましょう。同じ時期の東京-ロンドン往復航空券の価格差は以下の通りです。

| 航空会社 | ルート | 参考価格(往復) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ANA (NH) | 羽田-ロンドン直行 | 約250,000円〜 | 時短・快適だが高額 |
| 中国東方航空 (MU) | 上海経由 | 約110,000円〜 | 驚異の半額以下。荷物スルー可能 |
※2025年検索時点の概算価格。時期により変動します。
中国東方航空や中国国際航空は、政府の補助金プラス「ロシア上空を飛べる」という地理的優位性を活かし、市場価格を破壊しています。
差額の14万円があれば何ができるでしょうか? ロンドンの5つ星ホテルに2泊できます。飛行機の座席の幅よりも、目的地での体験の質にお金をかける。これが賢い旅行者の選択です。
中国トランジット「完全攻略」サバイバルガイド
「でも、中国での乗り継ぎはGoogleが使えないし不安…」
その通りです。準備なき中国乗り継ぎは悲劇(デジタル遭難)を招きます。しかし、以下の対策を行えば、上海や北京は「快適な中継地点」に変わります。
1. 通信環境の確保(The Great Firewall越え)
中国国内ではGoogle, X (Twitter), LINE, Instagram等が遮断されています。
解決策は「ローミング」または「香港経由のeSIM」です。日本のキャリア(ahamo, Rakutenなど)の海外ローミング機能を使えば、壁を越えて日本と同じように通信可能です。
絶対にやってはいけないのは、現地の空港Wi-Fiだけに頼ることです。
2. トランジットビザ免除措置(24/72/144時間)
現在、中国はトランジット客に対してビザ免除措置を拡大しています。
上海(PVG)などで第3国へ抜ける航空券を持っていれば、ビザなしで入国し、市内で小籠包を楽しむことも可能です。空港に閉じこもる必要はありません。
3. 「ラウンジ・サバイバル」ハック
もし入国せず空港で過ごすなら、プライオリティパスが必須アイテムとなります。
例えば、上海浦東国際空港(PVG)には、プライオリティパスで利用できる「No.37 Lounge」や「First Class Lounge」があります。
これらは深夜まで営業しており、温かい食事(ヌードルバーや点心)とお酒、そして何より静かな椅子と電源を提供してくれます。
経由地での10時間を「苦痛」ではなく「無料の食事と休憩タイム」に変える。これこそが旅のハックです。
Part 3: 戦略2「海外発券」のループ(発想の逆転)
これが最もエンジニア的なハックです。「東京に住んでいるから東京発のチケットを買う」という常識を疑ってください。
航空券は「どこからスタートするか」で価格が決定的に変わります。
「ソウル発券」の怪現象とロジック
航空券の価格は、出発地の物価や需要に連動して設定されます(POS: Point of Sale)。
例えば、以下のような現象が常態化しています。
- A: 東京(HND) → ロサンゼルス(LAX) [ANA直行] : 往復 約20万円(予約クラス: L/K等、積算率30-50%)
- B: ソウル(GMP) → 東京(HND)経由 → ロサンゼルス(LAX) [全区間ANA] : 往復 約14万円(予約クラス: U/H等、積算率70-100%)
Bのパターンでは、わざわざソウルから東京へ飛び、そこからAと同じフライトに乗るにも関わらず、総額は安くなるのです。
しかも、海外発券は「競争が激しい」ため、日本発よりも予約クラス(Booking Class)が高く設定される傾向にあります。
つまり、「安いのにマイルがたくさん貯まる」という、SFC修行僧にとって夢のような逆転現象が起きるのです。

具体的な予約手順(ANA公式サイトでのハック)
このチケットは、ANAのウェブサイトで普通に購入できます。特殊な裏ツールは不要です。
- ANAトップページの検索窓で「複数都市(Multi-city)」を選択する。
- Flight 1: ソウル(SEL) → 東京(TYO)
- Flight 2: 東京(TYO) → ロサンゼルス(LAX)
- Flight 3: ロサンゼルス(LAX) → 東京(TYO)
- Flight 4: 東京(TYO) → ソウル(SEL)
この際、Flight 2とFlight 3の間(目的地滞在期間)を長く取るのはもちろんですが、応用編としてFlight 1とFlight 2の間(日本滞在期間)を数ヶ月空けることも可能です。
これを「ストップオーバー(途中降機)」と呼びます。これにより、最初に一度ソウルに行けば、あとは「日本で数ヶ月暮らして旅行し、またソウルに戻る」という生活の中に、自然に長距離フライトを組み込むことができます。
この「海外発券ループ」に入ると、あなたは日本在住でありながら、航空会社のシステム上は「ソウル在住の優良顧客」として扱われ、常に割安な運賃を享受できるのです。
Part 4: 戦略3「マイルの裁定取引(アービトラージ)」
最後は、金融的なアプローチです。
日系エアラインのマイルだけに固執していませんか? 世界には「バイマイル(マイルをお金で買う)」ことで、正規運賃より遥かにお得に飛べるプログラムが存在します。
Alaska Airlines / Avianca LifeMiles の破壊力
これらの米系・南米系マイレージプログラムは、頻繁に「マイル購入セール(最大100%〜150%ボーナスなど)」を実施しています。
例えば、1マイルあたりおよそ1.8円〜2.0円程度で購入可能です。
【計算例:JALビジネスクラス(東京-バンコク)】
- 正規運賃(現金購入): 往復 約350,000円
- Alaskaマイル発券: 往復 50,000マイル必要
- マイル購入コスト: 50,000マイル × 2.0円 = 100,000円 (+諸税)
このケースでは、正規運賃で買うよりも**約70% OFF**でビジネスクラスに乗れることになります。
これは、「現金で買うチケットの市場価格」と「マイルで交換できる特典航空券の価値」の間に巨大なギャップ(歪み)があるために起こります。
マイルを単なる「ポイント」としてではなく、「変動相場制の通貨」として捉え、安い時に仕込んでおく。これが2025年の空を飛ぶためのファイナンス戦略です。
Part 5: 第4の選択肢「LCC(ZipAir)」との比較

ここまでFSC(フルサービスキャリア)のハックを中心に解説しましたが、2025年の選択肢としてZipAirを無視することはできません。
JAL傘下のLCCであるZipAirは、燃油サーチャージ不要の料金体系で、成田-ロサンゼルス/バンクーバーなどの路線を驚異的な価格で提供しています。
ハッカーはZipAirを選ぶべきか?
結論から言えば、「マイルやステータスに興味がないなら最強」です。
- メリット: 燃油サーチャージ込みの明朗会計。フルフラットシートもFSCのビジネスクラスの半額以下。
- デメリット:
- マイルが(ほとんど)貯まらない。
- SFC/JGCなどのステータス特典(ラウンジ、優先搭乗)が使えない。
- 遅延時の振替補償が弱い(自社便のみ)。
「移動」という機能だけを買うならZipAirは最適解です。
しかし、もしあなたが「SFC修行中」であったり、「将来の特典航空券のためにマイルを貯めたい」と考えているなら、前述の「中国経由」や「海外発券」を駆使してでもスターアライアンス/ワンワールド系に乗る方が、長期的なリターン(ROI)は高くなるでしょう。
まとめ:「点」ではなく「線」で旅を設計せよ
2025年の空の旅は、情報格差がそのまま経済格差に直結します。
単発の旅行を「点」で捉えてその都度高いチケットを買うのではなく、年間を通じた移動を「線」で捉え、海外発券や経由地戦略を組み込むこと。
この戦略的思考(ハッカーマインド)を持つ者だけが、インフレの波を乗りこなし、快適な空の旅を楽しみ続けることができるのです。

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