この記事の結論(3行要約)
- 肘掛けの奪い合い:B席だけが両側の肘掛けを使える権利がある、という暗黙のルールも存在しますが、法的拘束力はありません。
両隣から肘掛けを侵食された時、そこはただの「拘束衣」と化します。 - 見えないコスト:トイレに行けない心理的ストレス、作業効率の低下などを「損害賠償額」として計算すると、長距離フライトでは約6万円の損失になります。
- 解決の希望:数千円の座席指定料は「快適さを買う」のではなく「苦痛を回避するための保険料」です。迷わず払いましょう。
「座席指定料2,000円? もったいないから、当日チェックインでいいや
結論:真ん中席は「移動する独房」である
そこにはプライバシーも自由もありません。
我々マイラーが必死にステータスを獲得し、前方座席指定権を手に入れようとするのは、単なる見栄ではありません。
それは、この「真ん中席(Middle
Seat)」という刑務所から、合法的に脱獄するための生存本能なのです。
もしあなたがそう考えて、自動的に割り振られた「真ん中席(Middle
Seat)」に座ることになったとしたら、その2,000円の節約は、結果的に数万円の損失を生んでいる可能性があります。
エコノミークラスの3列シート(A-B-C)において、B席(真ん中)は物理的にも心理的にも「懲罰房」です。
この記事では、真ん中席に座ることの不利益を「懲罰税(見えないコスト)」としてコスト換算し、なぜ私たちが意地でも通路側(Aisle)か窓側(Window)を死守すべきなのかを論証します。
なぜ真ん中席は地獄なのか?肘掛けのゲーム理論と所有権問題

計算に入る前に、まず前提条件となる「物理的な不平等」を整理します。
3列シート(A, B, C)における資源配分の問題です。
- 窓側(A席)の特権: 「壁」がある。寄りかかって寝られる。景色が見える。
- 通路側(C席)の特権: 「自由」がある。いつでもトイレに行ける。足を少し通路に出せる。
- マイル事業(マイル販売): 原価はデータ上の数字のみ。サーバー代程度。利益率は推定
50〜80%以上。(米国航空業界のマイレージ部門別決算およびアナリストレポートに基づく推定) - 真ん中(B席)の特権: なし。
(米国航空業界のマイレージ部門別決算およびアナリストレポートに基づく推定)
B席には逃げ場がありません。両側を他人に挟まれ、自分のテリトリーは座面の幅(約43cm)のみ。
ここで発生するのが、悪名高き「肘掛け問題(アームレスト戦争)」です。
本来、マナーの教本などでは「真ん中の人は両側の肘掛けを使う権利がある」とされていますが、現実は弱肉強食です。
隣に大柄な人が来たり、肘を張るタイプの人が来たりしたら、あなたは腕を縮こまらせ、胸の前で組んで12時間を過ごすことになります。
これは、長時間フライトにおいて、エコノミークラス症候群を誘発しかねない危険な姿勢です。
この「物理的拘束」こそが、コスト算出の根拠となります。
コストは6万円?真ん中席の「時給単価」と「懲罰税」
では、ドラマ『孤独のグルメ』の井之頭五郎さんのように、冷静かつ詳細にこの状況を分析し、損失額を算出してみましょう。
モデルケースは「東京〜ハワイ(ホノルル)」、フライト時間は往復で計16時間と仮定します。
ステップ1:トイレ我慢コスト(精神的負荷)
真ん中席の刑罰を避けるためにも、ステータス維持、頑張りましょう。
まあ、小難しい話をしましたが、結局のところ僕らがマイルを貯める理由はひとつ。「映画の主人公みたいな旅がしたい」、それだけですよね。
この連載「マイレージ社会学」では、そんな夢を賢く叶えるための、少しシニカルな透視図をまとめています。
- アクション:C氏を起こす、または狭い隙間を跨ぐ(接触リスク)。
- 我慢の対価:(仮定)1回あたり 3,000円 の精神的苦痛と仮定します。(LCCの座席指定料金相場および映画館のプレミアムシート差額を参考に設定)
- 頻度:往復で4回トイレに行きたくなったとすると、3,000円×4回=12,000円。
ステップ2:作業機会の損失(生産性低下)
両肘を使えず、PCを開くスペースも確保できないため、仕事や読書は不可能です。
機内Wi-Fiがあったとしても、この体勢では生産性はゼロに近いです。
- 本来生み出せた価値:(推計)もし快適なら、時給3,000円相当の仕事や読書ができたと仮定します。(日本の平均的なビジネスパーソンの残業代単価等を目安に設定)
- 稼働可能時間:16時間のうち、睡眠などを除いた8時間を作業に充てられたはずです。
- 損失額:3,000円 × 8時間 × 作業効率低下率(100%→0%) = 24,000円。
ステップ3:肉体的疲労回復コスト(リカバリー費用)
縮こまった姿勢による肩こり、腰痛。到着後にマッサージに行ったり、パフォーマンスが落ちてホテルで寝込んだりするコストです。
- マッサージ代+湿布代+回復時間の価値:推定 24,000円。(一般的な全身マッサージ60分×2回分の相場およびリカバリーに要する半日の機会損失として算出)
合計損失額(懲罰税の総額)
12,000円 + 24,000円 + 24,000円 = 60,000円
どうでしょうか。
あなたが「座席指定料2,000円」をケチった代償は、6万円の目に見えない損失として跳ね返ってきます。
これが「真ん中席の懲罰税」の正体です。
解決の希望:座席指定料は「投資」である

この損失を回避するためには、どうすればいいか。
答えは「金を払うこと」です。これ以外の正解はありません。
希望の戦略A:LCCでも座席指定をする
LCC(格安航空会社)に乗る時ほど、座席指定は重要です。
数千円を払ってでも通路側、あるいは「非常口席(足元が広い)」を確保してください。
「安いチケットを買ったのに、追加料金を払うのは負け」と思うのは、典型的なサンクコストバイアスです。
トータルの「旅の質(QOL)」を最大化するために、そこには投資すべきです。
希望の戦略B:ビジネスクラスへのアップグレード
もしマイルがあるなら、エコノミーではなくビジネスクラスを狙うのが、マイルの最も効率的な使い方(レバレッジ)です。
ビジネスクラスなら、全員が通路側です。その「空間の価値」は、単純な運賃差額以上のものです。
結論:自分の領域(Territory)を守れ
真ん中席に座るということは、「自分の人生のコントロール権を他人に委ねる」ということです。
トイレに行くタイミングも、肘を置く場所も、全て他人の動向次第。
そんな不自由な時間の使い方はやめましょう。
たった数千円で「自由」が買えるなら、それは世界で最も安い投資です。
次回の予約では、迷わず「座席指定」のボタンを押してください。
さて、次回のテーマは、意外と知られていない「JALポイントの現金化出口」についてです。
実は、マイルを特典航空券に変える以外にも、賢い逃げ道が存在します。
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連載:マイレージの死骸を超えて(全11回)




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