
「As long as you can still grab a breath, you fight. You breathe… keep breathing.」
(息がある限り、戦え。呼吸しろ……呼吸し続けるんだ)
映画『レヴェナント:蘇えりし者(The
Revenant)』。レオナルド・ディカプリオが悲願のアカデミー主演男優賞を手にしたこの作品は、もはや映画という枠を超えた「生存記録」です。観客はスクリーン越しに、氷点下の風、凍てつく水、そして死の淵にある人間の生々しい吐息を感じることになります。
1823年、未開の荒野。熊に襲われ、仲間に見捨てられ、生きたまま浅い土の中に埋められた猟師ヒュー・グラス。肉体はボロボロになり、声すら失いながらも、彼は数百キロに及ぶ逃避行を始めます。彼を突き動かしたのは、単なる復讐心ではありません。それは、生物としての本能、そして亡き息子への想いに裏打ちされた「生きる」ことへの執着でした。
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと撮影監督エマニュエル・ルベツキがこだわったのは、CGを極限まで排除し、魔法のような黄金の光(マジック・アワー)を求めて「自然光のみ」で撮影すること。その過酷なロケは、俳優やスタッフを精神的・肉体的な極限まで追い込みましたが、その対価としてスクリーンに焼き付けられたのは、私たちの文明社会が忘れてしまった「圧倒的な生」の風景でした。
次は、あなたの番です。
「自分を極限まで追い込んでみたい」「地球の鼓動を感じたい」…そう思ったことはありませんか?この記事では、映画の舞台となったカナダ、アメリカ、さらに雪を求めて移動した南米アルゼンチンのロケ地を徹底解説し、その「執念」をマイルで実現するための具体的な生存戦略(フライトルート)を提案します。文明というシェルターを一瞬だけ脱ぎ捨て、”世界の果て”で自分の呼吸を確認する旅へ踏み出しましょう。
なぜ『レヴェナント』は大陸を縦断しなければならなかったのか
劇中の設定はアメリカのモンタナ州やサウスダコタ州ですが、実際の撮影はカナダのアルバータ州を中心に行われました。しかし、2015年の歴史的な暖冬が、撮影隊を絶望の淵に追いやります。「雪がない。これでは物語が成立しない」。
リアリティの権化であるイニャリトゥ監督は、前代未聞の決断を下しました。雪を求めて、地球の反対側、南緯54度に位置するアルゼンチンの最南端への大移動です。この「雪を求める執念」が、映画に圧倒的な美しさをもたらしました。同時に、現代の旅人にとっても、「目的地を書き換えてでも本物を探す」というマイル旅の本質を指し示しているように思えます。
※「空飛ぶ銀行」である米系エアラインのマイルを駆使して、この南北縦断ルートを攻略する知恵が必要です。
マイルで巡る『レヴェナント』聖地5選
1. カナダ・スコーミッシュ(熊の襲撃:Derringer Forest)

バンクーバーから「シー・トゥ・スカイ・ハイウェイ」を北上し、車で1時間半ほど。アウトドアの聖地として知られるスコーミッシュの深い森が、あの凄惨なグリズリー襲撃シーンの舞台です。
【本能が震える場所】
映画を観た誰もが静まり返った、熊の吐息がカメラのレンズを曇らせるあのシーン。実際に現地に立つと、巨大な針葉樹が空を覆い、湿った苔の匂いが鼻を突きます。静寂の中に響くパキッという枝の折れる音に、かつてここにいた捕食者の気配を感じずにはいられません。カルガリーへの移動前にバンクーバーでレンタカーを借り、この森の冷気を肺に溜めることから、あなたの冒険は始まります。
2. カナダ・カナナスキス(奇襲の河畔:Morley)

カルガリーから西へ約1時間。カナディアン・ロッキーの玄関口であるカナナスキス、そしてモーリー付近。ここが、映画開始直後の20分以上に及ぶ驚愕のカット風戦闘シーンが撮影された場所です。
【CINEMILEトリビア】
この河畔に張られたキャンプ地をアリカラ族が急襲するシーン。ルベツキが捉えたのは、冬の冷たい朝の光と、透明な川の流れが血で染まっていく残酷な対比でした。冬のカナナスキスは日照時間が極端に短いため、撮影チャンスを求めてスタッフや役者は毎日数時間しか働けませんでした。その「刹那の光」を浴びる冬の川、その冷たさをぜひ体感してください。SFC/JGC修行で培った忍耐力があれば、この極寒の待機も「ロマン」に変えられるはずです。
3. アメリカ・モンタナ州(激流の滝:Kootenai Falls)

物語中盤、グラスが追っ手を逃れ、ボロボロの体で川に飛び込むシーン。実はここだけ、カナダではなくアメリカ・モンタナ州のリビー近郊にある「クトゥナイ・フォールズ」で撮影されました。
【激流に身を任せる勇気】
かつて映画『リバー・ワイルド』のロケ地としても使われたこの滝。ディカプリオ自身がスタントなしで激流に入ったという逸話もあります。轟音とともに落ちる落差と、岩肌を打つ水しぶき。ここは人間がいかに自然の前で無力な存在であるかを突きつける場所です。カナダとアメリカの国境を越えるこのルートは、まさに「マイル旅の醍醐味」である国境越え(ボーダークロス)のスリルを味わわせてくれます。
4. カナダ・ドラムヘラー(流星の不毛地帯:Drumheller Badlands)

カルガリーから東へ約1時間半。一転して広がるのは、恐竜の化石の宝庫として知られる不毛の大地「バッドランズ」です。トム・ハーディ演じるフィッツジェラルドが、夜空に不気味に流れる流星を目撃するシーンに登場します。
【虚無と対峙する風景】
「フードゥー(キノコ岩)」と呼ばれる奇妙な浸食岩。長い年月をかけて風雨が削り出したその光景は、まるでもう一つの惑星のようです。生命がかつて存在し、そして消えていった寂寥感。ここでのフィッツジェラルドの独白は、過酷な自然の中で壊れていく人間の内面を見事に象徴しています。マイル残高が減っていくのを眺めるような虚しさを感じるとき、このバッドランズの風景は、あなたに「それでも旅を続ける意味」を問い直してくるでしょう。
5. アルゼンチン・ウシュアイア(最果ての決戦:Rio Olivia)

撮影の最終目的地、アルゼンチンの最南端、ティエラ・デル・フエゴ州の州都ウシュアイア。「Fin del Mundo(世界の果て)」として知られるこの場所のオリビア川こそが、グラスとフィッツジェラルドが最後に対峙する運命の地です。
【世界の果てで放つ最後の呼吸】
撮影隊が雪を求めて辿り着いたこの地。アンデス山脈の険しい尾根を背負い、凍てつく冬の川が流れるその光景は、もはや「美しい」という言葉では足りない、神々しささえ感じさせます。ここでグラスが見せた「赦し」とも「確信」とも取れる表情。世界の果てで流れる風に吹かれながら、その余韻に浸ることが、この南北縦断の旅の最大のハイライトとなります。
南北アメリカ大陸縦断!「サバイバル」マイレージ戦略

カナダ(カルガリー)からアルゼンチン(ウシュアイア)まで、その距離は約12,000km。日本から見れば、まさに地球の裏側の端から端までを移動することになります。通常の航空券では数十万円の費用と複雑な旅程が必要ですが、マイルを使いこなすことで、この冒険は驚くほどスマートに実現可能です。
1. 拠点カルガリー(YYC)へのアプローチ
まずは北の拠点、アルバータ州のカルガリーへ。日本からの直行便はありませんが、成田/羽田からエア・カナダを利用してバンクーバー経由で行くのがベストです。
- ANAマイル活用: 提携航空会社特典航空券なら、往復50,000マイル〜。
- JALマイル活用: ワンワールド特典(アメリカン航空経由)でも同等のマイル数で可能です。
2. 北米から南米への「跳躍」:ユナイテッド航空の活用
ここが本番です。北米からアルゼンチンへの移動には、ユナイテッド航空のマイルやANAの提携特典が威力を発揮します。
黄金ルートの例
- YYC(カルガリー) → IAH(ヒューストン) → EZE(ブエノスアイレス)
ANAの提携特典を利用すれば、北米・中南米を横断する旅程でも、燃油サーチャージを完全に回避できます(ユナイテッド航空等の燃油ゼロ会社を繋げば)。これは、映画の撮影隊が予備費を注ぎ込んでウシュアイアへ向かったのとは対照的に、賢くリソースを温存する戦略です。
3. 世界の果て・ウシュアイア(USH)への最終便
ブエノスアイレスからウシュアイアまでは、アルゼンチン航空(スカイチーム)がメインです。ここは「デルタ航空のスカイマイル」の出番。無期限のマイルを使って、パタゴニアの空を飛びましょう。
※南米特典の「枠」は非常に希少です。355日前の争奪戦に勝つための数学的思考と、Aviosの柔軟性を組み合わせることが重要です。
アイスランドとレヴェナント:共通する「生」への距離感
以前紹介した『LIFE!』のアイスランド。あそこもまた、自分の存在を再認識するための場所でした。しかし、『レヴェナント』のロケ地はより過酷で、より孤独です。ウォルター・ミティが「空想」を止めた場所なら、ヒュー・グラスは「絶望」を止めた場所です。
※アイスランドの「Space Oddity」を聴きながら、この南北アメリカ縦断の旅程を組む時間こそが、旅人にとっての至福のひとときです。
まとめ:最後に残るのは「自分の呼吸」だけ
映画『レヴェナント』のロケ地は、リゾートのような贅沢も、都会の喧騒もありません。あるのは冷たい風、薄い酸素、そして圧倒的な静寂だけです。しかし、マイルという翼を使って、はるばる世界の果てまで辿り着いたとき、あなたは気づくはずです。自分が今、どれだけ力強く生きているか、そしてその呼吸がどれほど貴重なものかということに。
マイルというデジタルな数値の蓄積。それは単なるポイントではなく、あなたをこの過酷で美しい「本物の世界」へと連れ出すためのチケットです。さあ、PCを閉じ、旅の準備を始めましょう。カナダの深い森から、アルゼンチンの凍てつく川へ。あなたの、あなただけのサバイバルはここから始まります。




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