この記事の結論(3行要約)
- 時給200円の労働:ポイ活案件を探し、管理し、消化する時間を労働時間と見なして計算すると、多くの陸マイラー活動はコンビニバイト以下の時給になります。
- 本末転倒の消費:「マイルが貯まるから」という理由で不要な外食や買い物をするのは、手段が目的化する典型的な認知バイアス(サンクコスト効果)です。
- 解決の希望:マイル管理アプリを削除し、カードを1枚に絞る。「マイルのための人生」から「人生のための旅」へと主導権を取り戻しましょう。
「このレストランならマイルが2倍貯まるから、こっちに行こう」
もしあなたが、自分が本当に食べたいものよりも「マイル還元率」を優先してお店を選んでいるなら、あなたはすでに「マイル貧乏神」に取り憑かれています。
お金を節約しているつもりで、実は「人生の質(QOL)」と「時間」を浪費している。
そんな本末転倒な状態を、行動経済学のメスで解剖します。
なぜポイ活は時給200円なのか?労働時間の棚卸し

あなたは「ポイ活神」と呼ばれる人々が、年間数十万マイルを貯めているのを見て、憧れているかもしれません。
しかし、その裏にある「投下労働時間」を計算したことはありますか?
ステップ1:作業時間の棚卸し
一般的な「陸マイラー活動」を分解します。(※一般的なポイ活モデルに基づく仮定:月間3万マイル獲得を目標とした場合)
- ポイントサイト巡回・案件探し:1日30分
- クレジットカード発行・管理・条件クリア:月2時間
- モニター案件(外食モニターなど)のレポート作成:1件30分 × 月4回
- ルート計算・移行手続き:月1時間
合計すると、月間約20時間、年間で240時間を「マイル業務」に費やしています。
ステップ2:成果の確認
これで貯まるマイルは、現実的に年間10万マイル程度でしょう。
(高額なFX案件や不動産面談などを乱発しない限り)
ステップ3:時給換算
1マイルの価値をどう見積もるかによりますが、ここでは甘めに見て(仮定)「1マイル=1.5円(e JALポイント換算やスカイコイン交換率)」として計算します。
- 年間成果(円換算): 10万マイル × 1.5円 = 150,000円
- 年間労働時間: 240時間
- 時給換算: 150,000 ÷ 240 = 625円
衝撃の事実です。
あなたの本業の時給はいくらでしょうか? おそらく2,000円、3,000円以上のはずです。
あなたは貴重な休日を削って、最低賃金を大きく下回る「時給625円の内職」に、それとは気づかずに精を出していることになります。
これが「マイル貧乏」の経済学的正体です。副業でコンビニバイトをした方が、経済合理性は遥かに高いのです。
コラム:「クーポンコレクター問題」の非合理性
確率論に「クーポンコレクター問題」という有名な定理があります。
「N種類のクーポンを全て集める(コンプリートする)ためには、想像以上に多くの試行回数が必要になる」というものです。
マイレージも同じです。「あと少しで特典航空券に届く」「あと少しでステータスが維持できる」
この「あと少し(Last One Idea)」を埋めるために支払うコスト(追加のフライトや買い物)は、往々にして得られるリターンを上回ります。
コンプリート欲求は、人間の脳に深く刻まれた本能ですが、現代社会においては搾取のトリガーでしかありません。
あなたの本業の時給はいくらでしょうか? おそらく2,000円、3,000円以上のはずです。
あなたは貴重な休日を削って、最低賃金を大きく下回る内職に精を出していることになります。
これが「マイル貧乏」の経済学的正体です。
脳を支配するバイアス:サンクコストとゲーミフィケーション
なぜこんな非合理な行動をしてしまうのか。
それはマイレージプログラムが、人間の脳のバグ(認知バイアス)を突くように設計されているからです。
- サンクコスト効果(コンコルド効果): 「これだけカードを使ったんだから、マイルを使わないと損だ」と思い込み、無駄な旅行を計画する。
- ゲーミフィケーション: ステータスメーターがあと少しで満タンになるのを見ると、不要なフライト(修行)を入れてしまう。
航空会社は、あなたを「お得な旅」に招待しているのではなく、「マイル収集ゲーム」という終わりのないネトゲに課金させているのです。
実録:ある「マイル富豪」の孤独
これは実際に見聞きした話をベースにしたケーススタディです。
Aさん(45歳・独身・IT企業部長)は、いわゆる「ステータスおじさん」でした。
- 保有マイル: 200万マイル
- ステータス: ANAダイヤモンド(10年連続)
- 口癖: 「俺はタダで世界中に行ける」
しかし、現実はどうでしょう。
激務のAさんには、マイルを使う暇がありません。
たまの休みも、ステータス維持のための「修行フライト(沖縄往復)」に消えます。
彼は200万マイル(理論価値400万円以上)という莫大な資産を持っていますが、それを「使う時間」という最も希少な資源を持っていません。
通帳の数字が増えることに快感を覚えるのと同じで、彼はマイルが増えることに中毒になっています。
しかし、墓場までマイルは持っていけません。
彼は「資産リッチ」ですが、間違いなく「時間プア(Time Poverty)」です。
これこそが、資本主義が作り出した現代の貧困の形なのです。
解決の希望:マイル・ミニマリズム

解脱(Gedatsu=修行を終えてステータスを得ること)の時間です。
マイルの呪縛から逃れる方法は、
「せっかく貯めたから損したくない」という心理が働き、マイル単価を上げるために、わざわざ行きたくもない場所へビジネスクラスで行く。
これは本末転倒です。投資の世界で言う「損切り」ができない状態と同じです。
半端に貯まったマイルや、使い道のないポイントは、きっぱり忘れてください。
「もったいない」という感情こそが、あなたの時間を奪う最大の敵です。
希望の戦略B:カードの断捨離
財布の中の「ポイントカード」を全て捨て、クレジットカードをメインの1枚(マリオットアメックスなど)に絞ってください。
「この店ではこのカードが得」という思考リソースの無駄遣いをやめるだけで、脳のCPUが軽くなります。

結論:マイルのために生きるな
旅行は本来、自由で楽しいものです。
「マイルの期限が」とか「還元率が」とか言いながら食べる夕食は、美味しいでしょうか?
マイルに使われるのではなく、マイルを使い倒す。それが「解脱」への第一歩です。
まあ、小難しい話をしましたが、結局のところ僕らがマイルを貯める理由はひとつ。「映画の主人公みたいな旅がしたい」、それだけですよね。
この連載「マイレージ社会学」では、そんな夢を賢く叶えるための、少しシニカルな透視図をまとめています。
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連載:マイレージの死骸を超えて(全11回)




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