この記事の結論(3行要約)
- 特典航空券は水物:JALの変動マイル制(PLUS)導入により、マイル単価のボラティリティ(価格変動リスク)が激増しました。もはや安定資産ではありません。
- e JALポイントの強み:一方、e JALポイントは「1.5倍」の固定レートでマイルを現金化でき、さらに燃油サーチャージやツアー代金にも充当可能です。
- 解決の希望:「マイル単価5円の夢」を捨て、「マイル単価1.5円の確実な現金」を取る。この損切りこそが、インフレ時代の最も賢い投資行動です。
「マイルは特典航空券に変えるのが一番お得。1マイル=2円にも5円にもなるから」
出口戦略さえあれば、マイルは怖くありません。
まあ、小難しい話をしましたが、結局のところ僕らがマイルを貯める理由はひとつ。「映画の主人公みたいな旅がしたい」、それだけですよね。
この連載「マイレージ社会学」では、そんな夢を賢く叶えるための、少しシニカルな透視図をまとめています。
この記事では、JALマイラーにとっての「第三の出口」である「e JALポイント」に焦点を当てます。
一見地味なこの「電子マネー」への交換が、なぜ現代において最強の「利益確定(利確)」戦略となり得るのか、実際の損益分岐計算を交えて解説します。
なぜ予約が取れないのか?「特典航空券」というハイリスク金融商品
まず、JALマイルを保有することのリスクを整理しましょう。
JAL国際線特典航空券には「PLUS(変動マイル制)」というシステムが導入されています。これは市場原理(需給バランス)に基づいたダイナミックプライシングです。
- 閑散期のホノルル:40,000マイル(往復)
- 繁忙期のホノルル:130,000マイル〜200,000マイル(往復)
あなたが働いている会社員で、夏休みや年末年始にしか旅行に行けない場合、あなたのマイルは自動的に「大暴落」します。
同じ航空券を取るのに、平日の無職の人の3倍〜5倍のマイルを支払わされるのです。
「いつか4万マイルで取れる日が来るはずだ」と信じて待ち続ける行為は、値上がりし続ける株を「いつか下がる」と信じて空売りし続けるようなもので、極めて危険です。なぜなら、マイルには「36ヶ月」という絶対的な賞味期限(満期)があるからです。満期が来れば、価値はゼロになります。
なぜJALは安全なのか?e JALポイントの「現金等価性」と1.5倍の魔法
そこで、ポートフォリオに組み入れるべき安全資産が「e JALポイント」です。
仕組みは単純。「マイルを電子ポイントに交換し、航空券・ツアー購入に充てる」。
- 交換レート:10,000マイル ⇒ 15,000ポイント(1.5倍)
- 利用価値:1ポイント=1円として、JAL Webサイトでの支払いに充当可能。
- 対象商品:国内線・国際線航空券、JALパックツアー、燃油サーチャージなど(※税金・空港使用料にも充当可)
コラム:「損したくない」心理(心理会計の罠)
多くの人がe JALポイント交換を嫌がる理由は、行動経済学で言う「メンタルアカウンティング(心の家計簿)」の罠にハマっているからです。
「マイルは特別なご褒美(無料旅行)に使いたい」という心の勘定科目と、「航空券代(生活費・娯楽費)」の勘定科目が別々になっているため、マイルを現金代わりとして消費することに心理的な抵抗(痛み)を感じるのです。
しかし、お金にお札に色はついていません。マイルで浮いた20万円は、あなたの給料口座に残る20万円と全く同じ価値です。この「心の壁」を壊せるかどうかが、資産形成の分かれ目です。
この「1.5倍」という数字は、一見すると「1マイル=1.5円」にしかならず、損に見えるかもしれません。
しかし、ここには隠された「3つのメリット」があります。
- 燃油サーチャージも払える: 特典航空券では別途現金払いが必要なサーチャージを、ポイントで相殺できます。
- 空席がある限り取れる: 「特典枠」ではなく「有償座席」を買うので、金(ポイント)さえあればGWでもお盆でも100%予約可能です。
- フライトマイルが貯まる: これが最大の特徴です。e JALポイントで買った航空券は「通常の航空券」扱いなので、搭乗すればマイルやFOP(Fly On Points)が貯まります。
この再投資効果(マイル再獲得)を含めて計算すると、1.5倍のレートにさらに数%〜10%程度の実質価値が上乗せされ、実質的な交換レートは1.6倍〜1.7倍に跳ね上がります。
JGC修行僧にとって、e JALポイントは「マイルをFOPに変換する装置」としても機能するのです。
隠された最強のメリット:FOP(ステータスポイント)の積算
これは声を大にして言いたいのですが、特典航空券ではFOP(Fly On Points)は1ポイントも貯まりません。
どれだけマイルを使ってハワイに行こうが、ステータス獲得には1ミリも寄与しません。
しかし、e JALポイントで購入した航空券は「通常の有償航空券」扱いなので、FOPが満額積算されます。
つまり、「マイルを使って(タダで)飛びながら、来年のステータス修行も進める」ことができるのです。
これは永久機関に近いシステムです。JGCプレミアやダイヤモンドを目指す修行僧にとって、手出し現金を抑えつつのFOP獲得は至上命題。e JALポイントはそのための最重要ツールなのです。

どっちが得か?数理シミュレーションによる損益分岐点

では、より詳細なシミュレーションを行ってみましょう。
モデルケース:夏休みのハワイ往復(有償チケット価格20万円、燃油込)。
ケースA:特典航空券(PLUS適用)で取る場合
- 必要マイル:130,000マイル(高騰中)
- 別途サーチャージ等:50,000円(現金払い)
- 総コスト: 13万マイル + 5万円
- 獲得マイル:0マイル
ケースB:マイルを全てe JALポイントに変えて買う場合
- 保有130,000マイル → 195,000 e JALポイントに交換
- 航空券代(20万円)に充当 → 手出し現金 5,000円
- 総コスト: 13万マイル + 5,000円
- 獲得マイル:約6,000マイル(フライトマイル)バック
勝者:圧倒的にケースB(e JALポイント)です。
手出し現金が45,000円も安く済み、さらにマイルも貯まります。
このように、サーチャージが高騰し、PLUSでマイル数がインフレしている局面では、「特典航空券で取る」ことが逆に損になる逆転現象が起きているのです。
多様なシナリオでのシミュレーション
ハワイ以外でも計算してみましょう。「マイル単価」の神話がいかに崩れているかが分かります。
| 路線(時期) | 有償価格 | 特典必要マイル | 特典マイル単価 | e JAL判定 |
|---|---|---|---|---|
| 羽田-札幌(週末) | 38,000円 | 16,000マイル | 2.3円 | △(特典有利) |
| 羽田-ロンドン(夏/Eco) | 350,000円 | 180,000マイル〜 | 1.9円(燃油別) | ◎(e JAL推奨) |
| 羽田-バンコク(年末/Biz) | 600,000円 | 240,000マイル〜 | 2.5円 | ○(好みが分かれる) |
※有償価格は燃油・諸税込。特典必要マイルはPLUS適用後の現実的な混雑時レート(推定)。
特にエコノミークラスにおいては、「特典航空券のメリット」はほぼ消失しています。
ビジネスクラスでさえ、PLUSによるインフレ(片道20万マイルなど)に捕まれば、e JALポイント(1マイル=1.5円固定)の方が有利になるケースが増えています。
結論:夢を捨てて「現金」を拾えるか
マイルには「夢」があります。「1マイル=10円でファーストクラスに乗れた!」という武勇伝は魅力的です。
しかし、その夢を追うあまり、現実の損益を見失ってはいけません。
投資の世界には「利確千人力(利食いは千人の助っ人に匹敵する)」という格言があります。
確実に1.5倍(フライトマイル込みで1.7倍)で利益を確定させ、確実にハワイのビーチに立つ。
このリアリズムこそが、不確実な時代を生き抜く、大人のマイル戦略なのです。
さて、次回は視点をガラリと変えて、航空会社の「財布の中身」を覗いてみます。
なぜ彼らは改悪を繰り返すのか? その答えはB/S(貸借対照表)に書いてありました。
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連載:マイレージの死骸を超えて(全11回)
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