この記事の結論(3行要約)
- 流動性の罠:資産価値は「最大値」ではなく「換金しやすさ(流動性)」で決まります。マイルは使い道が限定的で流動性が低いため、理論値よりディスカウントして評価すべきです。
- Vポイントの優位性:現金同様にあらゆる店で使え、投資信託も買え、さらにマイルにも変えられる「オプション価値」を持っています。金融商品として格上です。
- 解決の希望:マイルを直接貯めるのではなく、「Vポイント」や「楽天ポイント」としてプールし、使う直前にマイルに交換する戦略が、インフレ時代の最適解です。
「1マイルの価値は2円〜5円だから、1円のポイントよりマイルを貯めるべきだ」
陸マイラー界隈でよく聞くこのロジックは、一見正しいように見えます。
しかし、金融的な視点から言わせてもらうと、これは「流動性リスク(換えにくさのリスク)」を無視した危険な暴論です。
金融資産の価値は、単なる「額面」だけでなく、「いつでも好きな時に好きなものと交換できるか(流動性)」によって大きく左右されます。
この記事では、マイルと共通ポイント(Vポイント・楽天ポイント)を「金融商品」として比較し、なぜ今、マイルよりもポイントを貯めるべきなのかを解説します。
マイルとポイントの違いとは?金融商品としてのスペック比較

歴史は繰り返す:封鎖された「黄金ルート」たち
なぜ今、ポイントなのか? それは過去の歴史が「特定の交換ルートはいずれ必ず閉鎖される」と教えているからです。
ベテラン陸マイラーなら涙なしには語れない、閉鎖された黄金ルートの墓標を見てみましょう。
- 2018年・ソラチカルート(交換率90%)閉鎖: 陸マイラーバブルの崩壊。伝説の終焉。
- 2019年・LINEルート(交換率81%)閉鎖: ソラチカの代替ルートもわずか1年で消滅。
- 2022年・TOKYUルート(交換率75%)閉鎖: 東急カードを経由する最後の砦も陥落。
- 2024年・みずほルート(交換率70%): 現在の主流だが、いつまで持つかは誰にもわからない。
このように、高レートの交換ルートは、航空会社やポイント発行元の都合で「ある日突然」遮断されます。
そのリスクを抱え続けるくらいなら、最初から「現金(投資信託)」にも逃げられるVポイントで持っておくのが、最も安全なリスクヘッジなのです。
まずは、両者を金融商品としてスペック比較してみましょう。
ANA/JALマイル(Mileage)
- 分類: ジャンク債(高利回りだがデフォルトリスクあり)
- 理論価値: 2円〜15円(変動幅大)
- 流動性: 極めて低い(航空券にしか変えられない)
- 有効期限: 3年(強制償還)
一方、Vポイントや楽天ポイントは、実質的に「現金」です。
1ポイント=1円として、コンビニでも投資信託でも使えます。流動性は最強ですが、夢(爆発力)はありません。
Vポイント/楽天ポイント
- 理論価値: 1円(固定)
- 流動性: 極めて高い(コンビニ、投資信託、カード支払い)
- 有効期限: 実質無期限(変動がある限り延長)
本当に1マイル=2円か?流動性プレミアムによる再計算
金融の世界には「流動性プレミアム」という考え方があります。
「いつでも現金化できる資産」は価値が高く、「売るのに時間がかかる資産(不動産など)」は割り引いて評価されるべき、という理論です。
流動性を取るか、夢の爆発力を取るか。正解はあなたの旅のスタイル次第です。
まあ、小難しい話をしましたが、結局のところ僕らがマイルを貯める理由はひとつ。「映画の主人公みたいな旅がしたい」、それだけですよね。
この連載「マイレージ社会学」では、そんな夢を賢く叶えるための、少しシニカルな透視図をまとめています。
- 表面利回り:1マイル=2円
- 流動性割引:▲50%
- 実質価値:1マイル=1円
つまり、苦労して予約争奪戦に参加する手間を考えると、実は「1ポイント=1円」のVポイントと大差ない、あるいは負けている可能性があるのです。
「自由」の値段を数式にする
少しアカデミックな話をしましょう。
金融工学において、流動性プレミアム(L)は以下のように概念化できます。
マイル(P=2円)の場合、予約困難(d=0.5)とすると、V=1円。
ポイント(P=1円)の場合、即時利用可(d=0.0)とすると、V=1円。
結局、同じなのです。
それならば、ストレスなく自由に使えるポイントの方が、精神衛生上(QOL)の価値は高いと言えませんか?
10年シミュレーション:投資 vs 貯蓄
「マイルを貯めて寝かせる」のと「ポイントを投資に回す」の、10年後の差を計算します。
- ケースA:100万マイルを貯金
- 10年後:度重なる改悪により、価値は30%下落。
- 実質価値:70万円相当(インフレ負け)
- ケースB:100万VポイントをS&P500で運用
- 10年後:年利5%で運用できたと仮定。
- 実質価値:約163万円相当(複利効果)
マイルは金利を生まないどころか、価値が目減りする資産です。
一方、ポイントは(投資に回せば)金利を生む資産です。
この「機会損失」の差は、時間が経つほど絶望的に開いていきます。
解決の希望:「ポイントで持ち、マイルで撃つ」

では、どうすればいいのか。
答えは「普段はポイントで持ち、使う瞬間だけマイルに変える」ことです。
希望の戦略A:Vポイント(Olive / 三井住友カード)
最強の選択肢は、三井住友銀行の「Olive」アカウントを軸にしたVポイント経済圏です。
なぜなら、ここには「世界最強の決済網(Visa)」と「金融資産(SBI証券)」が融合しているからです。
- Visaの汎用性: 世界中どこでも「1ポイント=1円」として使えます。JAL/ANAカードが使えない店はあっても、Visaが使えない店はほぼありません。
- 自動投資(S&P500):
これが事実上の最強機能です。SBI証券と連携すれば、Vポイントで直接「S&P500」や「オール・カントリー」などの投資信託を購入できます。「ポイントで株を買う」世界線が、ついに実現したのです。 - マイルへの脱出路: そして重要なのが、いざという時はANAマイル(0.5倍〜0.6倍)に交換できるという「非常口」が確保されている点です。
コラム:ポイントとマイルの間に聳える「壁」
Vポイントとマイルの間には、極めて高い「壁(交換コスト)」が存在します。
- Vポイント → マイル: 交換レートは50%〜70%。つまり、移行するだけで資産価値(額面)が30%〜50%も毀損します。
- マイル → Vポイント: 原則不可、あるいは著しく低いレート(1万マイル→1万ポイントなど)。一度マイルにすると、現金のようには使えなくなります。
つまり、一度ポイントをマイルに変えてしまうと、「元には戻れない(または大損する)」のです。
この「不可逆性」こそが最大のリスクです。
だからこそ、マイルが必要になるギリギリの瞬間まで、資産を「Vポイント(現金・投信)」という安全地帯に留めておくべきなのです。
「普段はVisaと投資で資産を増やし、使う瞬間だけマイルに変える」。
この柔軟性こそが、2026年を生き抜くための最大の防御です。
楽天ポイントも、ANAマイルに「0.5倍」で交換できます。
レートは低いですが、楽天経済圏の爆発力(SPU)を使えば、ザクザク貯まります。
「足りない分だけマイルに変える」という予備タンクとして優秀です。
コラム:ANA Pay / JAL Payではダメなのか?
「マイルをANA Pay(1マイル=1円相当)に変えてコンビニで使えば、Vポイントと同じじゃないか?」
鋭いご指摘です。確かに、出口(使う場所)としての「コンビニ」は変わりません。
しかし、決定的な違いが「入り口(貯め方)」と「増やし方」にあります。
- ANA/JAL Pay: マイルを「消費」することはできても、S&P500などの「投資」に回して増やす効率は非常に悪い(交換ルートが複雑、または不可)。
- Vポイント/楽天: ポイントのまま「投資信託」を買えます。つまり、寝かせている間に「お金が働いて増える」のです。
マイル(Pay)は「減るだけのサイフ」ですが、ポイントは「増える可能性のある種銭」です。
この「複利効果」の有無が、10年後に決定的な資産格差となって現れます。
結論:マリオットポイントが最強である理由
究極のハイブリッド資産を紹介しましょう。
「マリオット・ボンヴォイ・ポイント」です。
- ホテルの無料宿泊に使える(価値変動なし)
- ANAにもJALにも、ユナイテッドにも「1.25倍」で交換できる
- 有効期限は実質無期限

この交換レート(0.5倍)こそが、マイルの「現金化ペナルティ」です。
マイルは「航空券に変える」時にのみ輝く、極めて特殊な転換社債のようなものなのです。
これは、現金(ポイント)と投資(マイル)のいいとこ取りをした「転換社債」のような最強の金融商品です。
2026年の資産防衛術として、メインバンクを「マリオット」に移すことを強く推奨します。
「1マイルの価値は2円〜5円だから、1円のポイントよりマイルを貯めるべきだ」
陸マイラー界隈でよく聞くこのロジックは、一見正しいように見えます。
しかし、金融的な視点から言わせてもらうと、これは「流動性リスク(換えにくさのリスク)」を無視した危険な暴論です。
どちらの通貨を持つか。その選択が、あなたの旅の自由度を決定づけます。
誤解しないでください。私は「マイルを貯めるな」と言っているわけではありません。
むしろ、「使う(消費する)」チケットとしてのマイルは、世界最強のバウチャー券です。
たった数万ポイントで、数十万円のビジネスクラスに乗れる。こんな錬金術は、現金の投資では不可能です。
リスクがあるのは、それを「貯金箱(Storage)」として数年間も抱え込むことなのです。
全財産をマイルという不安定な通貨で持つのではなく、
普段は強い通貨(ポイント・投資)で持ち、必要な時だけマイルに両替する。
この「ハイブリッド戦略」こそが、インフレ時代の最適解なのです。
さて、次回は少し怖い話。「マイル貧乏」についてです。
お得なはずのポイ活で、なぜか貧しくなっていく人々の心理学。
他の記事も覗いてみてください。一緒に、この無理ゲーなマイレージ社会を生き残りましょう。
連載:マイレージの死骸を超えて(全11回)




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