
湿気を含んだ熱風、路上に溢れるプラスチックの椅子、そして絶え間ないバイクのクラクション。
ベトナム・ハノイに降り立つと、その圧倒的な「生」のエネルギーに最初は気圧されるかもしれません。
しかし、半日もすれば気がつくはずです。この混沌こそが、たまらなく心地よいのだと。
今回は、映画『キングコング:髑髏島の巨神(Kong: Skull Island)』のロケ地として世界的に有名になった世界遺産「チャンアン(Trang An)」がある都市、ニンビン(Ninh
Binh)と、首都ハノイ(Hanoi)の映画的スポットを巡る旅をレポートします。
1. ベトナムは「一度」で回るな。「短期決戦」を繰り返せ
まず、ベトナム旅行における最大の戦略をお伝えします。
それは、「一度で全部見ようとしないこと」です。
ベトナムは南北に細長い国です。北のハノイ、中部のダナン・ホイアン、南のホーチミン。それぞれ気候も文化も、まるで別の国のように異なります。
これらを一度の旅行(5〜7日間など)で駆け足で回ろうとすると、移動だけで疲弊し、それぞれの街の本当の良さを味わう暇がありません。
2泊3日の「週末海外」に最適
おすすめは、「2泊3日程度の短期旅行を、複数回繰り返す」スタイルです。
日本(東京・大阪)からベトナムへは、約5〜6時間のフライト。深夜便を使えば、金曜の夜に出発して月曜の早朝に帰国し、そのまま出社することも可能です。
- 今回のテーマ:北部の歴史と映画ロケ地(ハノイ・ニンビン)
- 次回のテーマ:中部のランタン祭り(ホイアン)
- その次のテーマ:南部の美食と熱気(ホーチミン)
このようにテーマを絞って「つまみ食い」するように旅をする。マイルを使って航空券代を抑えられるマイラーだからこそできる、贅沢な「通い方」です。
2. 徒歩で迷い込む映画セット「ハノイ旧市街」
ハノイの魅力は、なんといっても「歩いて回れるコンパクトさ」にあります。
特に観光の中心地である「旧市街(Old Quarter)」は、古き良きアジアの情緒が色濃く残るエリア。地図を持たずに迷い歩くこと自体がエンターテインメントになります。

奇跡の光景「トレインストリート」
まず訪れるべきは、生活道路のど真ん中を列車が通過する奇跡のスポット、通称「トレインストリート(Train Street)」です。
映画『インセプション』のような、現実と非現実が曖昧になる感覚を味わえます。
ここは現在、安全上の理由から観光客の自由な立ち入りが制限されています。
線路沿いのカフェの店員さんが「コーヒー飲む?」と合図を送ってくれます。
幅わずか数メートルの路地で、名物の「エッグコーヒー(卵黄とコンデンスミルクを使った濃厚なコーヒー)」を啜りながら列車を待つ。
警笛と共に巨大な鉄の塊が目の前(本当に鼻先数センチ!)を轟音と共に通過していくスリルは、他では絶対に味わえない映画的体験です。
熱狂の週末「ハノイ・ナイトマーケット」
もし旅程が金曜〜日曜にかかるなら、幸運です。
毎週金・土・日の夜、旧市街の目抜き通り(Hang Dao通りからDong Xuan市場まで)が歩行者天国になり、「ハノイ・ナイトマーケット」が開催されます。
全長約3kmにわたり、衣類、雑貨、土産物、そして無数の屋台フードが並びます。
ここでのおすすめは、食べ歩き。
- バインミー(Banh Mi):フランスパンにレバーパテや野菜を挟んだベトナム風サンドイッチ。
- フォー(Pho):路上の低いプラスチック椅子に座ってすする、熱々の米粉麺。
- チェー(Che):豆や寒天、ココナッツミルクを使ったベトナム風ぜんざい。
数百円でお腹いっぱいになれる幸福。これこそがアジア旅の醍醐味です。
3. 世界遺産ニンビンで「キングコング」に会う

ハノイの「動」を楽しんだ翌日は、車で南へ約2時間。
「陸のハロン湾」と称される世界遺産、ニンビン(Ninh Binh)へ向かいます。そこにあるのは、圧倒的な「静」の世界です。
チャンアンのバンブーボート

ニンビンのハイライトは、「チャンアン(Trang An)」でのボートツアーです。
手漕ぎのバンブーボートに乗り込み、石灰岩の奇岩群が聳え立つ川をゆっくりと進みます。
ここは、2017年の映画『キングコング:髑髏島の巨神』の主要ロケ地。
映画冒頭、ヘリコプター部隊が嵐を抜けて未知の島(髑髏島)に到達し、その美しさに息を呑むシーン。その風景が、CGではなく実写として目の前に広がっています。

ツアーの途中では、かつて映画の撮影セット(原住民の村)があった島にも上陸できます(セット自体は撤去されていますが、その雰囲気は残っています)。
また、ボートごと低い鍾乳洞の中をくぐり抜けるスリリングな体験も。
船頭さんの巧みなパドル捌きで、頭上数センチの岩肌をかわしながら暗闇を進む感覚は、まさに探検隊そのものです。
4. 映画のような美食体験「ハノイ・グルメ」
「食」もまた、旅の重要なエンターテインメントです。
ハノイには、まるで映画のワンシーンのような食事を楽しめる場所があります。
ミシュランも認めた老舗「Bún Chả Đắc Kim(ブンチャー・ダッ・キム)」
「有名店もいいけれど、本当に美味しい店に行きたい」。
そんなあなたにおすすめなのが、旧市街ハンマン通りにある「Bún Chả Đắc Kim(ブンチャー・ダッ・キム)」です。

1966年創業のこの老舗は、観光客だけでなく地元民にも愛される名店。
特徴はなんと言っても、店頭で煙を上げながら焼かれる炭火焼きの豚肉とつくねです。
甘酸っぱいタレにはパパイヤが入っており、たっぷりの香草やニンニク、唐辛子を加えて自分好みの味に調整して食べるのがハノイ流。
オバマ大統領が訪れた店も話題性がありますが、純粋な「味の深み」と「肉のボリューム」で選ぶなら、個人的には間違いなくこちらを一押しします。
ハノイ大教会でのひととき

ブンチャーでお腹を満たした後は、すぐ近くにある「ハノイ大教会(セント・ジョセフ教会)」へ。
ここは街のシンボルであり、人々の生活の中心です。教会の前の広場でアイスティー(Tra Da)を飲みながら、行き交う人々を眺める。ただそれだけの時間が、とても愛おしく感じられます。
ホアンキエム湖の夕暮れ
そして夕暮れ時は、ホアンキエム湖へ。
水面に映る赤い橋、ベンチで語らう恋人たち、太極拳をする老人たち。
この湖の周りには、ハノイの「優しい時間」が流れています。混沌としたバイクの波を抜けた先に待っているこの静けさこそが、ハノイという街の本当の美しさかもしれません。
路地裏の「フォー」
そして定番の「フォー(Pho)」。
ホテルの朝食で食べる上品なフォーも良いですが、真の味は路地にあります。
「Pho 10 Ly Quoc Su(フォー10・リー・クオック・スー)」などの名店で、現地の人々と肩を並べて熱々のスープをすする。
ライムを搾り、チリソースを少し足す。その瞬間の「現地に溶け込んだ感覚」こそが、何よりのスパイスです。
5. 伝説のホテル「ソフィテル・レジェンド・メトロポール」
もし、あなたが「映画の主人公」のような気分を味わいたいなら、宿泊先(あるいはアフタヌーンティーだけでも)はここ一択です。
「ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイ」。
1901年創業。喜劇王チャーリー・チャップリンが新婚旅行で滞在し、作家サマセット・モームが執筆を行ったという、生ける伝説のようなホテルです。
フランス植民地時代のコロニアル建築がそのまま残り、中庭のプールサイドでカクテルを傾ければ、100年前にタイムスリップしたような錯覚に陥ります。
ベトナム戦争時代に使われた「地下防空壕」が敷地内に発見され、宿泊者限定で見学ツアーも行われています。
単なる高級ホテルではなく、歴史の生き証人としてそこに泊まる。これもまた、シネマイル流の旅の選び方です。
6. 旅を「お得」に「楽しく」するためのマイル戦略
ベトナムへの「リピート旅」を実現するために必要なもの。
それは「マイル」と「ラウンジ」です。
ANAマイルなら35,000マイルから
ベトナム(ゾーン4)への往復特典航空券は、エコノミークラスで35,000マイル(レギュラーシーズン)から。
これは、クレジットカードの入会キャンペーンなどを上手く活用すれば、一撃で獲得できる数字です。
「航空券代が浮いた分で、ハノイの高級ホテル(ソフィテル・レジェンド・メトロポールなど)に泊まる」
あるいは、「浮いたお金で、次のホイアン旅行の資金にする」
マイルを使えば、旅の選択肢は無限に広がります。
空港の混雑は「ラウンジ」で回避
ハノイのノイバイ空港は、時間帯によっては非常に混雑します。
そんな時、プライオリティ・パスや航空会社の上級会員資格があれば、喧騒を離れてラウンジでフォーやビールを楽しむことができます。
旅の疲れを癒やし、次の旅への活力を養う。
ロケ地を巡る冒険も、空港での優雅な時間も、どちらも諦めないのが「シネマイル流」の旅のスタイルです。
まとめ
ハノイの熱気と美味しいストリートフード。
ニンビンの静寂とキングコングの世界。
たった2〜3日の滞在でも、ベトナムは忘れられない景色を私たちに見せてくれます。
一度で全てを知ろうとせず、何度でも通ってみてください。
その度に新しい「映画のワンシーン」のような発見が、あなたを待っているはずです。



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